2017年を振り返る、というには少し早い気もしますが、木ノ脇にとって今年は例外的に濃い一年だったように思います。
アンサンブルノマド20周年の今年はいつも以上に気合の入った定期シリーズにとどまらず、5月には藤倉大さんやハインツ・ホリガー、そして入野賞の受賞者の若き作曲家たちとのコラボレーションもありました。
また個人的には久しぶりの森山開次ー津村禮次郎チームとの共演で佐渡と小金井公園で薪能に出演という初めての経験もしました。
と、いうような音楽家としての活動を横目に、Facebookに投稿し続けた映画のレビューを追いながら2017年を振り返ってみたいと思います。
題して「2017年映画日記」
前半と後半に分けてお届けします。少し長いですがお付き合いください!(笑)
1月20日
「島々清しゃ」封切り!
いよいよ明日封切りですね!
思えば音楽監督で脚本も担当している磯田さんの構想段階から話を頂いてから3年越しの映画です!
今度は観ていただく人に育ててもらう映画です。テアトル新宿はじめ日本各地でロードーショーです!
*自分が関わった映画で始まるのはキリが良いですね!
楽器指導とエンドロールの演奏で関わった映画で沖縄慶良間諸島でのロケにも同行したのが、もう3年前の2014年。主演の伊東蒼ちゃんにフルート教えたんだけど、めちゃくちゃ覚えが良くてびっくりしたの覚えてます。
http://www.shimajima-kaisha.com
1月25日
「沈黙」
意外と早いタイミングで「沈黙」見れた。
観た後に感じるのはやはり、遠藤周作の物語が、桁外れに巨大でダイナミックな「器」なんだな、ということ。
映画も力強くて良かったけど、さすがのスコセッシも後半は大きすぎるテーマを持て余してるようにも感じた。
それにしても「キチジロー」ってキャラクターは、少なくとも力のある役者さんなら絶対やってみたい役だろうなと思う。
物語を一貫しているテーマそのもののような役で、演技者としての技量が試される役である。
通辞役の浅野忠信も最初はキチジローのオーディションを受けたらしい。
浅野のキチジローなら、また全然違う映画になると思う。
窪塚洋介のキチジローはどこか生命力を感じさせる演技だった。生きようとする意志と信仰との間のせめぎ合いで苦悩するキチジローって感じだったな。
人間の弱さには個性がある、ということかもしれないな。
*近所のイオンシネマで観たんだけどガラッガラに空いてたのが印象的でした。ミニシアター系 の小さい映画館の方が、かえって客入ってる印象があるのは面白い。シネコンは宣伝にお金かけてる映画でも大抵ガラガラ。ミニシアターは上映もピンポイントだから好きな人はマメに情報を収集してやってくる、ということか。
ま、イオンで買い物した帰りに踏み絵だ、拷問だ、処刑だって見たくないのかもな(^^;;;
1月30日
今日は映画二本。
「ブラインド・マッサージ」と「LISTEN」
見えない人たちと聞こえない人たち。
このふたつの映画に魅せられてしまう理由は「見えない」あるいは「聞こえない」ことを健常者からの上から目線で撮っていないこと。
「ブラインド・マッサージ」は南京のマッサージ医院の明るい日常も、見えない人同士の醜いやりとりも余すとこなくえぐり出す強烈なドラマだし、「LISTEN」は聞こえない人にも「音楽」がある、ということを彼らの身体をダイナミックに使った表現にしている、という点で。
とはいえ、このふたつの映画、全然違う映画ではある。
「ブラインド・マッサージ」は見えない人同士の恋愛や性愛で、癒されたり気づついたりする姿が、「見える」人間たちの姿にもだぶる瞬間があるのだけど、だけどやっぱり違うんだなあ、と考えさせられ、それ以上に感情に訴えてきて「しんどい」映画だった。
「LISTEN」が「ブラインド・マッサージ」と明らかに違う点は、監督も出演者も実際の聾者で、鑑賞に際しては耳栓が配られること。
この映画見るのは実は二回目。
去年6月に見たときは正直戸惑いもあって、素直に入ってこなかったんだけど、今回の方がはるかに良かった。
1回目の感想を持ち帰り、半年以上忘れることができずに再会したって云うのが大きかったのかもしれない。
自分は普段当たり前のように「音」を媒介として音楽をやっているけど「音」そのものは音楽の本質ではないかもしれない、ということを考えさせてくれる映画でした。
3日前に滋賀県の聾話学校でアウトリーチをやったこともちょっと関係があるかもしれない。
*「LISTEN」はこの後さらにもう一回見て合計3回も見たのですね。「聞こえない人たちが自分たちだけの「音楽」と称して、独自の表現をする」ということから、音楽の本質は「音」そのものとは別のところにあるかもしれない、と考えさせられたからかも知れません。「LISTEN」の聾者たちが体を使ってする表現も、音楽家たちが使う「音」も何かを暗示してるだけかもしれないのですね。
http://www.uplink.co.jp/blind/
http://www.uplink.co.jp/listen/index.php
2017年1月14日(土)より、アップリンク渋谷、新宿K’s cinemaほか全国順次公開 南京の盲人マッサージ院を舞台にロウ・イエ監督が描く、生きることの希望と絶望を凝視する衝撃作
2月5日
「淵に立つ」
リハーサルの後の空き時間でやっと。しんどい映画。
しかし浅野忠信、筒井真理子、古館寛治3人の演技者としてのポテンシャルを余すところなく引き出してる点では奇跡的な作品。
計算して準備したならすげえ、と思って見てみたら深田監督まだ若いやん!
監督の名前インプットできただけでも見てよかった。
*今年見た中で特にこれ!をあえて言うとしたらベスト3くらいには入ってくるんじゃないですかねー。何か悪いことが起こりそうな嫌な感じがずーっとしてる、っていうのと、浅野忠信が出てないシーンでも強い存在感を感じさせてるっていう役者としての力と、そのポテンシャルを引き出した若き監督のポテンシャルを感じる映画でした。
映画『淵に立つ』公式サイト/10月8日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー
2月15日
「ゴンドラ」
1986年製作の映画「ゴンドラ」
痛切な孤独、故郷の海への憧憬。
時間の関係で上映後の監督のトークショーに参加できなかったのが残念だった。
高層ビルの窓清掃用ゴンドラから見えるのは88年着工予定の都庁建設のためのさら地。バブル真っ盛りの時代だったのだなあ。
どういう風に受け取られたのだろうか。
見てよかった。
*伝説の映画なんですね。監督のTOHJIROさんはこの映画の借金返すために見たこともなかったアダルトビデオの監督になり、その世界でまた伝説になるつーね。
笑うことのない瞳を持った少女”かがり”が、窓拭きの青年と出遭った夏・・・失われた旋律を索めて、ふたりが向かったのは<暖かい北>。ひとりの少女の“心の対話の物語”を刻みこんだ伝説の映画が、完成より30年を経て今、デジタルリマスター版で…
2月18日
昨日は気になってた映画館「ブリリアショートショートシアター」に行ってみたのだな。
この映画館1時間1000円で劇場がチョイスした短編映画数本を観れる、というシステム。
昨日見たのはアジアショートフィルムプログラムで4本。
インドネシアの「フレンド」が良かったかな。
木ノ脇が今まで観たショートフィルムで面白かったのは、2007年のカンヌ映画祭の企画オムニバス映画「それぞれのシネマ」の中の「ロミオはどこ?」アッバス・キアロスタミ監督。
たった3分の映画で、有名なゼッフィレリの「ロメオとジュリエット」のラストシーンを女たちが泣きながら観てる、ってそれだけなんだけど、その若い人もいればおばさんもいるしおばあさんも居て、ってたくさんのそれぞれ違うハラハラ顔を見てるうちにそれぞれの個性的な内面生活が透けてきて、ってしかけ。
これが面白かったのは、ドキュメンタリー風に淡々と映してるから、てっきり普通の人々かとおもいきや、注意深く観ると恐らく女優さんたちで、撮影の意図を念入りに説明されてやってるんだな、ってことに13回目くらいで木ノ脇は気がついたわけ。
観る方は映画そのものを観るしかないけど、隠れた事情が映画にはたくさんあって面白い。
こないだ観た「ゴンドラ」も監督は伝説的AV監督TOHJIROさんなんだけど、インタビューなんかみると「ゴンドラ」の借金返すために観たこともないアダルトビデオを撮るようになったんだと。
*この「ブリリアショートショートシアター」2017年末に向けて閉館することになってるみたいですね。寂しいこってす。映画館がある神奈川県新高島の辺り、マンションが沢山建ってたはずですが、みんなが見に行けば閉館ってこともないと思うのですけどね。
おしゃれに演出してもマニアックだったのでしょうか。
Brillia SHORTSHORTS THEATER – ショートフィルム専門シアター / レンタルシアター / シネ婚
「ブリリア ショートショート シアター(Brillia Short Shorts Theater)」は日本初!…
2月27日
「食」にまつわるドキュメンタリー映画2本。
「ノーマ東京」はコペンハーゲンのレストラン「NOMA」(イギリスの雑誌のランキングで4回世界1になってる)が東京のホテルで期間限定営業をするにあたり、シェフたちが腕と知恵の限りを尽くす。
ひとくせもふたくせもありそうなシェフたちが最高の料理のために力を尽くす様は「THIS IS IT!」のダンサーたちとだぶって見えてしまった。
「0円キッチン」
世界で食べられることなく廃棄されている食材は生産量の3分の1。
植物油で動くように改造した車でヨーロッパ中をまわり、廃棄食材で料理を作って回る。
終始明るく楽しい雰囲気を崩さないところが、かえって問題の闇の深さを考えさせる仕掛けのように感じた。
どちらの映画にも「昆虫食」が出てくるところが面白い。
かたや贅を尽くした究極の一皿のため、かたやタンパク質摂取のための肉食に変わる代用として。
*「ノーマ東京」、限定営業の準備のためにコックさんたちが日本に下見にやって来て各地を回るシーンがあるんだけど、何でもかんでも口に入れちゃうのがまるで1歳児みたいでしたw
上映スケジュール | 映画『0円キッチン』オフィシャルサイト
期間限定で販売する特別鑑賞券を利用すると、通常一般1,800円のところ、1,500円で鑑賞いただけます。ぜひこの機会にお求めください。
3月2日
「たかが世界の終わり」
愛し合うのに傷つけ合う。
距離を詰めようとすると自らの棘で相手を傷つける「ヤマアラシのジレンマ」そのまんまみたいな話。
主演のギャスパー・ウリエル「ハンニバル・ライジング」の美少年振りが鮮烈な印象だったけど、円熟味を増した役者さんになったなあ。
*監督のグザビエ・ドランまだ20代ですごく若い。「美しき天才」なんて言ってえらい煽って宣伝してる記事も見かけるけど、正直言うと「人間ドラマ撮るには若すぎるんじゃないかなあ」って感想でした。同じ若手なら深田晃司監督の方に期待したい。彼がジャカルタで撮影中の新作、すごい気になります。
『Mommy/マミー』グザヴィエ・ドラン最新作!カンヌ国際映画祭グランプリ!描くのは「ある青年の最期の帰郷」その旅の先は──|映画『たかが世界の終わり』公式サイト|2017年2月11日 全国順次ロードショー
3月8日
ざ・鬼太鼓座
林英哲の名前くらいは知ってたけど、和太鼓のことなんかあまり知らなかった。
40年以上前から和楽器を使って、こんなに創意に満ちた試みをやってたとは。
感動するのは「新しいものを作ってやろう」という姿勢。
むしろ現在これをやることのほうが難しいかもしれない。
*これは映画館ではなくDVD買って観たのですね。伝統芸能を踏まえ新しいものを作る人、というのはとても尊敬する。繋がりにくいかもしれないけど、ビオラ・ダ・ガンバのジョルディ・サバールも同じようなクリエイティビティーを持ってると思います。
そしてこれ以降、木ノ脇の音楽活動としては和太鼓とのコラボが下半期にかけて続くことになるっつー偶然ね。
加藤泰 生誕100年 幻の遺作 遂に封印が解かれる!
3月14日
「パラダイス・ナウ」
去年見た中で特に印象深かった「オマールの壁」のハニ・アブ・アサド監督の過去作品。
自爆テロ攻撃に向かうパレスチナの二人の若者の日常と、最後の1日。
「オマールの壁」同様突き放した目線で淡々と撮るのがアサド監督の語り口で、パレスチナの閉塞状況が突き刺さってくる。
思えば「オマールの壁」ではイスラエルの秘密警察にも等身大の人物を登場させて更にイスラエルとパレスチナの状況を冷徹な視線で語るやり方に進化ー深化させてたように感じる。
*「オマールの壁」良かったんですよ。テロリストたちがもともとは普通の人たちだって分からせてくれるって点で。
この「パラダイス・ナウ」も自爆テロに向かう主人公は普通の若者。
体に爆弾巻きつけていざバスに乗って決行って段で、バスの入り口を横から狙うカメラワークが料金箱のところに小さい男の子がチラッと姿を現すのを捉えるショットで決行をためらってしまう。
その前半のシーンと遠い伏線でつながるラストシーン。爆発シーンこそないもののイスラエル兵満載のバスの中、胡乱な目で座る主人公にフォーカス、そしてカットアウト。
この後間違いなく決行したんだな、と観てる人に確信させる演出。
じつに映画的でした。
3月16日
「五日物語」
これ、2年くらい前に予告編が流れ始めた時から見たかった。
2年間の期待に背くことなく絢爛で美しく、残酷でグロテスクで狂ってて哀しくて。
「フリーダ」から12年歳取ったサルマ・ハィエックが貫禄の女優っぷりに成長してて良かった。
*いわゆる「大人向けのファンタジー」に属するものと思われる。三つの話が交錯するオムニバス。
ヨーロッパに現存する3つの奇観を誇る城をロケに使ってて、ま、一言で言って「大作映画」っすわ。でも日本でもそんなに宣伝されてはなかったし、どういう風に採算取るのかなあ、と下世話な関心を持つ木ノ脇でした。
11.25(金)全国ロードショー。母になることを追い求め、若さと美貌を熱望し、まだ見ぬ世界に憧れる…400年の時を経て、カンヌを2度制した鬼才が描く世界最初のおとぎ話は、現代と変わることのない、残酷なまでの女の“性(サガ)”。
3月24日
「湯を沸かすほどの熱い愛」
「島々清しゃ」で主演の伊東蒼ちゃんが大事な役で出てる他、「紙の月」で素晴らしい女優ぶりを発揮してた宮沢りえの新作ということもあって、気になってた。
伊東蒼ちゃんはこの映画で若干11歳ながら、高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞してます。
そして「紙の月」とはぜんぜん違う映画だったけど、宮沢りえ、ドラマを牽引する貫禄の主演女優だった。
もうひとり、物語の主観になってる娘役の杉咲花の弱虫っぷりがはまりまくってて素晴らしかった。
とりあえず名前覚えるくらいには。
女たちに押されまくりのダメ親父のオダギリジョー、って構図がイマ風だったかな。
実は今日、本当は新宿武蔵野館の「クーリンチェ少年殺人事件」を見ようと思って出向いたんだけど、まさかのチケット完売・・・。
平日の真昼間、上映時間4時間の映画が売り切れって。
見逃して肩透かしやったけど、面白そうなものにアンテナ張ってる人がまだまだ居ると感じられて嬉すいかな。
*「紙の月」は本当に良かった。主演の宮沢りえがしっかりドラマを引っ張ってるって点で。
銀行のオールドミス小林聡美が銀行のお金を横領した主人公をただ非難するのではなく、人間的な経験則に基づいて諭そうとするのに対して、宮沢りえが合理性とは正反対の、女性的な感情で突っ走る破滅的ファム・ファタールを演じて負けてなかったからね。
死にゆく母の熱い想いと、想像もつかない驚きのラストに、涙と生きる力がほとばしる家族の愛の物語。-最高の愛を込めて、葬(おく)ります- 10月29日(土) 新宿バルト9他 全国ロードショー 映画『湯を沸かすほどの熱い愛』
4月3日
「お嬢さん」
韓国の美男美女「しか」出てこないベタ甘の恋愛映画はいまいち苦手なんだけど、パク・チャヌクを筆頭とする「かきむしり系」はなかなか面白い。
この映画R18指定。
つまりセックスも残酷シーンもふんだんに出てくるってこと。更に言えば韓国俳優たちの妙に文語調のヘンテコな日本語もお腹いっぱい聞かされる。
ちょっと長めの尺だったんだけど、10年ほど前の「復讐3部作」の頃からのパク・チャヌク監督の特徴である豪華で大仕掛けでコントラストの強い画が今回もたくさん使われてて見応えあった。眼福眼福。
ちなみに復讐3部作の中では「オールド・ボーイ」が一番いいかな。
「哀愁がある」って点で頭一つ抜けてる感じがするな。
カンヌグランプリは伊達じゃないね。
セックスと暴力の描写を徹底的に使うのもパク・チャヌクの特徴だと思うんだけど、日本人とはそういったことに対する感性とかスタンスが微妙に違う、って感じさせてくれるところが面白い。
強い刺激とはうらはらに、とてもとてもデリケートな感覚に裏打ちされていないとできないことだと思う。
日本であれ、韓国であれ。
話は違うけど、この「韓国はちょっとしたことが日本とは微妙に、しかし決定的に違う」というような言い方を聞かなくなって久しい気がする。
というか「外国人はヘンな奴らだけど面白い」って言説自体が、この10年ほどの間に姿を消してる気がするのは俺だけだろうか?
人間を「敵」と「味方」に分けるだけの萎縮しまくった風潮のせいなんだろうな。
昔から映画好きだったけど、最近むさぼるように意識的に観まくってるのは、そんな萎縮した空気に対して無意識に対抗してるのかもしれないと思う。
実にささやかな対抗措置だけどね。
外国人の友達が一人でもいる人は、彼らがどれだけ「ヘンな奴らで面白く、また根本的には我々と同じだ」ってことを宣伝するのだ!
*この後原作のサラ・ウォーターズ「荊の城」を読んだ。面白かった!
が、結末が映画と原作全然違うのね。
ま、原作は練りに練られた芸術的なパズルみたいなサスペンスで、映画の方は感覚に訴えるエンターテインメントってことなんだろうけど。
4月17日
「人生タクシー」
監督は巨匠キアロスタミの助監督を務めたジャファル・パナヒ。
これは期待以上だった。
素晴らしかった。
タクシーを運転しながら人々と対話する監督の姿からは辛酸を舐めた人間特有の優しさと逞しさと繊細さを感じた。
ドキュメンタリーとフィクションの境目を行くような手法は監督の師、キアロスタミが好んで使ったやり方。
車載のカメラのみを使ってこれだけ一貫したメッセージの映画作るのは、緻密で巧妙な演出がないとできないと思うし、それも結局は監督の人間力って気がするな。
*前の「お嬢さん」から2週間、あいだが空いてるのですね、もう2週間も空いたら「全然映画観れてない」って危機感すら感じるというね。自分自身の音楽活動としては、初めて小松亮太さんのバンドに加わったり、芸大の学生とのコラボレーションがあったりしてバタバタしてた辺りでしょうがなかったんですけどね。
「辛酸を舐めた」というのはパナヒ監督がイランの政府から「20年間映画製作、海外渡航、文筆活動禁止」を言い渡されてること。で、その宣告の直後に監督が作ったのが「これは映画ではない」というタイトルの映画。
ね、愛情と哀愁のユーモアでしょ?
映画『人生タクシー』公式サイト|2015年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞|イランの名匠 ジャファル・パナヒ監督最新作|2017年4月15日(土)新宿武蔵野館他、待望のロードショー!
5月9日
演奏で韓国行ったり、東京芸術劇場のボーンクリエイティブフェスティバルに出てたりしたら、映画何にも観れてないね。
「明日へのチケット」
エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ共同監督
こんなあるの知らんかった。
「横綱相撲」って感じもするけど、ラストではきっちり泣かされたね。
これを踏まえてケン・ローチの新作観に行こうかね。
*これもDVDを見たんすな。全然映画館なんか行けなかった時期ですわ。
前の年から気にしてた「セルゲイ・ポルーニン」の上映と本人が登壇するプレイベントが東京芸大の奏楽堂であり、芸大関係者ならタダで観れるという日、午前中に韓国から帰国して、その足で芸大でレッスンだったから「夜は空いとる!おっし観たろ」と思ってたんだけど、疲れすぎて断念。行っても絶対寝ると思ったからね。
で、結局「セルゲイ・ポルーニン」今に至るまで観てないっつーね。そういうことありませんか?
5月10日
で、ケン・ローチ最新作にしてカンヌパルムドール受賞作の「わたしは、ダニエル・ブレイク」
この映画が秀逸なのは、よるべなき弱い人たちと、彼らに寄り添おうとする人たちは徹底的に割りを食わされ、惨めな思いを味わせられ、最後まで絶対に救われないってこと。
予告や公式サイトでは「涙と感動の」なんて煽ってるけど、実際観た印象はずっとビターで後味が悪い。
でもそこがケン・ローチのメッセージで心の叫びなんじゃないかな。
「現実はそんなもんだろ!それでいいのか!?」というような。
こういう映画はカタルシスで終わると絶対良くないと思う。気持ち良くなって忘れちゃうからね。
「明日へのチケット」を「横綱相撲」と思ってしまったのも、(こっから後ネタバレあんね→)難民の家族に最も疑惑の目を向け続けてたサッカーファンの一人が、最後に自分が無賃乗車で逮捕される覚悟でチケットを譲ってしまう「救い」があったからかもしれない。
ま、この見方には賛否両論あると思うけどね。
*難民にチケットを譲る結末はケン・ローチ監督のギリギリの愛情って感じがしないでもない。迷ったんじゃないかなーと、俺は思ってしまうのです。
心ある映画作家なら戦争や貧困のような現実を「カッコよく、美しく撮ってはいけない」という思いを等しく持っているように思う。「野火」の塚本監督もそのような決意であの素晴らしい映画を作ったのだな。絶対に2度と見たくないような戦場の有様を再現して、尚且つそれをフィリピンの荘厳と言ってもいいような美しい大自然と対比させてるところに映画としての効果があったように思うんですね。
「わたしは、ダニエル・ブレイク」では二人の子供を抱える貧しきシングルマザーが、慈善団体が主催する食料の無料配布会に行くんだけど、空腹に耐えかねてその場で缶詰を開けて中身をすする、という醜態をさらしてしまい、みじめさと情けなさに泣き崩れてしまうというシーンが哀れで悲しくてたまらなかったですね。
第69回カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞。文部科学省特別選定作品。「人生は変えられる。隣の誰かを助けるだけで。」名匠ケン・ローチが<今、だからこそ>全世界に伝えたいメッセージ。涙と感動の最高傑作。映画『わたしは、ダニ…
5月11日
「ノー・エスケープ」
オリジナルのタイトルは「desierto」だから直訳すると「
主演のガエル・ガルシア・ベルナル、
思えば「バベル」でも、
映画はシンプルな逃走劇なんだけど、「砂漠」という、
しかし人を殺したいだけの狂ったやつからすると「
身の毛もよだつ話だけど。
これに「トランプ政権誕生」って現実の状況が重なって、一気に「
しかし「珍しい話」とは思わない。
相模原の「やまゆり園」の事件も、
この映画に出てくる、不法入国者を憎んで殺しまくるサムも、
*思うにこの映画のテーマは「密入国」と「アメリカ銃問題」
といってるけど我が日本も「原発問題」
BGM:So much trouble in the world;Bob Marley& the Wailers
5月17日
「追憶」
鮮烈なオープニング。
安藤サクラと吉岡秀隆の存在感が映画をまるで次元の違う重厚なドラマにしてる、というのが俺の印象。
「島々清しゃ」のチームからはサクラさんの他に渋川清彦さんが出てる。
渋川さんはアクの強い役が多い印象だけど、実際の本人は手足が長くて彫りが深くてすごくカッコいい。
対照的に普段のサクラさんはフツーそのものの人にしか見えないところが底知れなくて、かえって怖いくらいなんだな。
*サクラさんがすごいのはもう周知のことだけど、渋川清彦さん、大田原愚豚舎の渡辺監督と親交があって友情出演してたり、「エイミー・セッド」みたいな通好みの渋い企画に顔出してたりして自分的にはとても気になる役者さんなんですね。上記のほめ言葉に付け加えると、「寡黙で知的で」ともいっておこうかな。
映画「追憶」公式サイト 監督:降旗康男×撮影:木村大作×主演:岡田准一 2017年5月6日全国東宝系公開.
6月5日
「クーリンチェ少年殺人事件」
ここのところバタバタでしばらく映画見れなかったんだけど、しばらくぶりにふさわしい素晴らしい映画だった。
計算し尽くされた演出であり、構図であり、カット割りであり、編集だと思った。
そして独特の柔らかい光と影。
上映時間4時間は半日がかりだけど、それだけの価値はあった。
ヤン監督の作品、観れるだけ観てみようと思ったな。
*今年はこれ見たのが一番大きかったかな。91年の映画だけどデジタルリストアの全長版を劇場で見た、っつーのが。
いわゆる「台湾ニューシネマ」を代表する作品。じつは3月くらいに一回見ようとしたんだけど、まさかのチケットソールドアウト!
「平日の午前中で上映時間4時間の映画が売り切れ!?」と、がっかりよりビックリしたのを覚えてますわ。
いまだったら日本語字幕のやつが手に入るのに、待ちきれなくて英語の字幕のブルーレイ買って持ってるんですね。
映画史に燦然と輝く伝説の傑作!エドワード・ヤン監督『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』が25年の時を経て4Kレストア・デジタルリマスター版で蘇る!実際の事件をモチーフに青春のきらめきと切なさを見事に切り取った珠玉の名作が遂に日本…
6月8日
「恐怖分子」をブルーレイで観てみる。
やはり佳作。
だけど先日の「クーリンチェ少年殺人事件」を観た経験からいうと、劇場で観るのとでは全然印象の違う映画だと感じる。
映画館に足繁く通ってるけど、劇場で観るのと家でビデオみる違いよく分かってなかったと思う。
しかし、これははっきり違う気がする。
映画館の闇の中でしか感じられない柔らかな光の効果というものがある。
それを想像で補いながら観てたな。
とはいえ、それでも「クーリンチェ~」はDVD持っときたいなと思わせる映画だった。
ちなみに「クーリンチェ少年殺人事件」は全然ちがう名前でDVD化されてんのね。
権利関係が複雑に絡んでるみたいね。
*「クーリンチェ」の三日後にもうDVD入手してるわけだから、よっぽど「クーリンチェ」が良かったんですな。
この後読んだ小説「流」も台湾の話だったし、恩田陸の短編集にも偶然ヤン監督を暗示するような話が出てきたりして、台湾(と中国)の歴史にとても興味を覚えますね。
6月29日
「ムーンライト」
静かな映画。人物を斜めや後ろから追うカメラワークが特徴的だった。主人公シャロンの悲しみや孤独や不安や怒り、といった感情を横顔や後ろ姿で語らせてるところが静謐さを作り出している映像効果なんだな。多分。
あと主人公の(と唯一の友人ケヴィンもだけど)子供時代と高校時代と大人になってからの時代を3人の別々の人が演じているんだけど、演技者としての連携がとても良かった。
どんな演技指導をしたのかなあ、と考えてしまいました。
*「クーリンチェ」からだいぶ日にちが空いてると思ったら、この月はアンサンブルノマドで立て続けに大きな仕事をした月でしたね。
「後ろ姿が」と言ってますが、男は後ろ姿の哀愁がいいっすね。女の子は見上げる瞳が挑むようなのがいい。
と、いうような詩が谷川俊太郎にあったような気がします。
映画『ムーンライト』公式サイト。大ヒット公開中!