チームのこと

今回はフルートは持ち換えなし、ピアノとのデュオって編成で一晩のコンサートだったから、ずいぶんクラシカルで洗練された印象だったのではないだろうか。

加えてロマン派のレパートリー、ライネッケのソナタ「Undine」がプログラムの中核をなしている形だったからなおのこと。

しかし木ノ脇、増田、石田の3人ともが新曲を作ったのであり、演奏者みんなが作曲家でもあるリハーサルというのはとても積極的で、なおかつ自由でもある。

作曲家であり、同時にプレーヤーでもあるということは、さらにまた積極的で自由な「聴き手」であることをも思い出させてくれる。

(石田さんの新曲は当初の予定ではフルート2本とピアノ、という編成になっていて、彼女自身も演奏に参加する予定だったけど、作曲中に方針が変わり、彼女は作曲家の役割に徹することになった。つまり方針の転換でリハーサルにおいては「聴き手」の方に大きく振れるメンバーになったわけだけど、そういう人が居るのと居ないのとでは全然雰囲気も結果も変わってくるのである。ちなみに彼女は演奏こそしなかったけど、今回の重要なファクター「水にまつわる詩」の朗読者になってくれた)

特に新曲としてフルートのソロ曲を作曲した増田さんにとってピアノを弾いている瞬間と、自分の新曲の響きをリハーサルで確かめている時間は両極端の体験だったのではないだろうか。

この雰囲気は「Undine」のリハーサルにさえ影響があったと思う。 「ルーティーンな義務感」のようなものから離れたところで、このロマン派の名曲にアプローチできたと思うのである。

チラシをやってくれた一森加奈子さんも目を引くデザインで花を添えてくれた。 チラシのデザインから本番の演奏まで一貫したイメージにできたのは彼女のおかげである。

そしてもう一人、「チーム」というのなら、このコンサートの共同主催者であり、制作全般を引き受けてくれた野口恵三さんも、実に積極的なメンバーだったことを紹介しておきたい。

そもそもこの演奏会のきっかけは野口さんだったと言ってもいい。 彼が若手のフルーティスト達を支援して開催していた演奏会のシリーズの中から、木ノ脇が若手フルーティストたちとコラボレーションする演奏会が何度か続き、その言わば「番外編」として今回の演奏会があるわけだから。

「自己演出はあんまり上手くないけど才能のある人たち」を支えてやろう、というのが野口さんの「気概」なのであり、その気概に自分のアイデアも値すると思ってもらえたなら、ちょっと誇らしい。


我々は伯爵の横暴に知恵と勇気で立ち向かうフィガロとスザンナとケルビーノ、

我々は銀河鉄道のコンパートメントに向かい合って座り、語り合い旅するジョバンニとカンパネルラだった。

我々は進軍する蜀の武将たち、

我々は破滅に向かって突き進むロメオとジュリエットだった。

我々は二条院で寡黙に睦み合う源氏の大将と紫の上、

我々は・・・・

だが旅が終わったなら「チーム」は解体され、それぞれがそれぞれの日常に溶けていくだけである。

しかし「再会」もまた可能なのである!